過敏性腸症候群(IBS)とは
腹痛にともなって下痢や便秘、腹部膨満感などの便通症状がおこり、排便とともに症状が少し改善するといった状態がずっと続いているため、病院にいって検査を受けても、腸やその他の消化器、内分泌などに異常がみられないといった場合、過敏性腸症候群(IBS)を疑います。過敏性腸症候群は機能性ディスペプシアなどとともに機能性胃腸障害(FGID)に分類される疾患の一つで、日本人の1~2割はこの疾患の症状があると言われています。
症状があらわれるきっかけとしては、通勤電車による出社、会議でのプレゼンテーション、試験といった精神的なストレスが関わることが多く、精神的・心理的な要因も大きくかかわっていることが考えられています。
過敏性腸症候群は直接生命にかかわるという重篤な疾患ではありませんが、便通にかかわる症状、強いストレス要因などによって大きく生活の質(QOL)が低下してしまう疾患であり、症状に気づいたらできるだけ早い受診をお勧めします。
過敏性腸症候群の症状
過敏性腸症候群は、国際的な消化器病学会によって4つのタイプに分類されています。腹部膨満感(ガス)を含めて便通異常を症状とするのが特徴で、ストレスによって悪化しやすい特徴があります。男性は下痢型、女性は便秘型が多い傾向があります。
便秘型
緊張などのストレスが要因となって、腸の運動機能や知覚機能に異常が生じ、腸管が部分的にけいれんすることによって、腸の蠕動運動が妨げられ、腹痛をともなう便意によってトイレでいきんでも兎糞状の小さなコロコロとした便しか出ない状態です。これによって、痔や別の大腸疾患を合併する可能性が高くなります。
下痢型
緊張する場面やトイレがない場面(通勤電車など)で、突然腹痛をおこし激しい便意にかられます。トイレにかけこんで排便すると水様便の下痢となり、排便をすますと症状は落ちつきます。ストレスをきっかけに腸の運動機能が過剰となって下痢をおこすと考えられています。同様の局面でまたトイレにいきたくなるのではないかと不安になって悪循環をおこすこともあり、ついには出社や通学に支障をきたすこともありますので、お早めの受診をおすすめします。
混合型
便秘の後に下痢となるといった、便秘型・下痢型の繰り返しです。
分類不能型
下痢や便秘の範疇に入らず、腹部膨満感や抑えられないおならなどの症状があります。
過敏性腸症候群の原因
胃や腸などの消化管は、脳と緊密に連絡を取り合いながら働いています。その働きは脳からの上意下達的なものではなく、消化管からの要求も大きくかかわています。その間をとりもつのが神経のうちでも随意的にコントロールすることができない自律神経です。ストレスやその他の要因によって自律神経のバランス(交感神経と副交感神経)が崩れると、消化管において常に肛門方向へと消化物を送る働きをする蠕動運動などの運動機能や、腸に消化物が溜まりすぎているなどを感知する知覚機能などが障害され、様々な腸の不快な症状がおこると考えられており、そのため過敏性腸症候群は機能性胃腸障害に分類されています。
便通にかかわることだけに、一度症状をおこすと同様な状況でまたおきるのではないかと心配になり、かえって症状を増悪させてしまう悪循環となりがちです。
過敏性腸症候群の治療
過敏性腸症候群は、食生活を含めた生活習慣の見直しをまず試みる必要があります。全体としては規則正しく、腸に負担をかけない消化の良い食材をバランス良く食べることが大切です。とくに下痢型の場合は刺激となる激辛の香辛料などは避けることをお勧めします。
乳糖不耐型(牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする)の人は、食材として乳製品を避けることも大切です。一方で便秘型の人は水分補給と食物繊維を多めにとるようにするとよいでしょう。
また、食事療法だけではなく、カウンセリングや認知行動療法などによる心理療法も症状を低減するきっかけとなります。
薬物療法
腸管の蠕動運動を改善する薬や知覚過敏を改善する薬といった従来型の薬物による治療の他、腸の蠕動運動を亢進させる脳内の神経伝達物質であるセロトニン受容体の拮抗薬であるラモセトロン塩酸塩(商品名イリボー)を使用することが多くなってきています。
また、過敏性腸症候群のどのタイプにも有効な薬として、水分の吸収や保持のバランスを調整するポリカルボフィルカルシウム(商品名コロネル)は、下痢型や便秘型のどちらのケースでも適応し、ちょうど良い便の硬さに調整してくれる薬です。
どうしてもストレス要因などの心理的要因が強い場合、抗うつ薬、抗不安薬などを処方することもあります。その場合、症状と処方のバランスなどは精神科医や心療内科医でなければ処方が難しい局面もありますので、お困りの際は気軽にご相談ください。
過敏性腸症候群の予防
過敏性腸症候群は、生活習慣などの日常的要因やストレスなどの心理的要因の影響をうけやすい疾患です。休養や睡眠などをしっかりとコントロールする、食生活は規則正しく、3食をバランス良く食べる、お酒を飲みすぎないといった工夫が大切です。とくに喫煙習慣がある方はニコチンの摂取が症状の増悪に繋がることがわかっていますので、禁煙は必須です。
生活の中で大きなストレス要因を自覚されている場合は、心療内科や精神科など心の専門家に相談することをお勧めします。